学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革

学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革

はじめに

総評

徹底した目的思考で「学校」という長い年月の積み重ねで慣例が作り続けられてきた組織に改革をもたらす取り組みが記載されています。一見すると教育関連に限定された学びかと想像されるタイトルですが「目的と手段の在り方」「自律のために大切にすること」などビジネスの原理原則も詰まった一冊です。

オススメの読み方

本著は実際の取り組み事例も複数紹介していますが、その事例だけをかいつまんで実行に繋げるような短絡的な読み方にならないことが重要になります。「全ては目的のために」という前提を大切に、自分の組織や学校ではどのような手段が適切かをイメージしながら読み進めることでリアリティが増すと思われます。

こんな方にオススメ!

・教育現場に従事している方、教育事業者と協業されている方

・前年踏襲、実績踏襲の思考から脱却したい方

・周囲に目的思考をわかりやすく伝えたいがその工夫に苦労されている方

著者紹介

著者の工藤勇一さんは現在は神奈川県にある私立の横浜創英中学・高等学校の校長を務められている教育者です。書籍の出版当初は公立校である千代田区立麹町中学校の校長として学校現場に勤められていました。
また活躍は自校内に留まらず、経産省「未来の教室とEdTech研究会」委員、内閣官房教育再生実行会議委員など公職も歴任されています。

学校現場で大胆な改革?一時期話題になった民間校長かな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、工藤さんのキャリアは一貫して教育現場が主戦場です。
地元である山形県の教員としてキャリアをスタートさせ、東京都公立中学校教員、目黒区教育委員会、東京都教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長を経て、本著の当時は千代田区立麹町中学校の校長として現場に立たれ2020年からは現職に就かれています。

長く「学校の当たり前」と歩んできた工藤さんが行った改革、その本質からは学校というカテゴリを超えた学びを得ることができると確信を持ってお薦めいたします。


ポイント解説「ここを読め!」

①目的を明確にし、今の手段が適切かを考える(=手段の目的化を防ぐ)

本著の中で工藤さんは、学校での施策は担うべき本来の目的を見失っているのではないかと記しています。
その言葉の意味するところは、手段の目的化にあるとされています。
宿題を課すこと、服装指導を行うこと、定期試験を行うこと これらは全国津々浦々どこの学校でも行われている「当たり前」であり「慣例」であると思いますが、それぞれの目的を明確に言語化してみると手段としてそれらは適切であるのか懐疑的な部分も少なくありません。

宿題を例に挙げると、仮に生徒の学力向上・学習習慣の醸成を宿題の主たる目的であると仮定します。
次に課される宿題の内容に目を向けると、クラス単位・科目単位で統一された横並びの内容が課されることが多いと推察されます。ここで重要になってくることが、学力向上と統一された内容の宿題を課すと言う手段が目的のための最適な手段であると言えるのかと言う点になります。
学力の向上=分からなかったことがわかるようになるプロセスが重要であることを考えると、宿題の在り方を見直す必要が出てきます。
肝心なことは宿題そのものが悪なのではなく、長い歴史の中で作られてきた慣例に倣って手段が先行し、目的を見失っているようなことはありませんかという視点を持つことにあります。
上記にような事例は学校現場に限らず、歴史の長い組織においては往々に起こりうることであると思います。時代の変化を掴み、目的に沿って適切な変化を選択していくことは非常に重要なポイントと言えるのではないでしょうか。

②新たな学校教育の創造(柔軟な手段の導入)

「定期試験の廃止・クラス担任制の廃止・宿題の廃止」紹介される工藤さんの改革事例は教育現場での就業経験がある方に限らず、当時を回顧して貰えればチャレンジングな印象を受ける方も多いのではないかと思います。
ここでポイントとなるのが、①でも記した通り「目的」に沿って柔軟に手段を変更していくという思考です。
学校には学校教育法という基盤が存在し実際に運営にも影響を与えていることは事実であると思います。しかしながら、実際には制約がなく学校単位の権限で挑戦可能な領域も十分に存在します。本著では実際に麹町中学校時代に取り組まれたチャレンジの数々が記載されています。

例)
・法律の存在意義を考えさせる模擬裁判の実施
・自己開示を促すための米国非営利団体主催ワークショップの開催(3日間)
・旅行会社とタイアップした企画型取材旅行の実施

これらのチャレンジにおいて工藤さんが大切にされてきたことは、「生徒が社会の中でよりよく生きていけるようにする」という麹町中学校の最上位目的を達成するために必要であり、かつ確度の高い手段を選択するということです。
目的の整理ができた次なる一手は、その目的に到達するための慣例に捉われない適切な手段を選択するということにあります。

③現状を見直す過程における組織マネジメント

新しいチャレンジが全てスムーズに進むとは限りません。工藤さんの取り組みにおいてもそれは同様でした。
工藤さん自身は教育委員会にいらした期間も長く、現場に立たれている期間の長さだけで見れば年数が上回る教員も学校にはいたのではないかと推察されます。
そのような中、如何にして学校づくりを推進したのかポイントが記載されています。これらのポイントは学校現場はもちろんながら、企業や組織にも通ずるものがあります。

・「改革」という大袈裟な言葉でなく「改善」を地道に繰り返す意識を持つ
・現状をありのままに受け止める
・対話を通してメンバー(教員)の自律を高めることを意識する

上記を大切にしながら、①・②の通り絶えず目的を意識しそのために最適な手段を選択していくことで学校一体となって推進するマネジメント成功させていきました。

まとめ

さて、今回ご紹介した「学校の「当たり前をやめた。生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革」ですが、最後までお読みいただけた方には理解いただけたかと思いますが、教育現場の話でしょうという先入観で向き合っては勿体ないほどにビジネスシーンでの応用が効く内容になっています。学校で言えば教育理念や教育目標、生徒像やコンピテンシーを軸に施策を定めていくと同様に、企業においてもビジョンミッションに代表される理念、行動指針や大切にしたい価値観など物事を進める上での軸が存在します。慣例に流れ続けるのではなく、大切な理念を守りながら予測不能な変化の新時代に適応する手段を選択できる組織は強くなる。そんなメッセージを感じた一冊となりました。

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