はじめに
総評
「やめる」という言葉をネガティブに捉えてしまい、心をざわつかせてしまっている人に向けた、前向きに「やめる」選択をし未来を切り拓くヒントが詰まっている一冊です。「こうあるべき」という思い込みから自分を解放するための方法論を加えながら「やめる」を紹介しています。
オススメの読み方
これまでと同じではいつまでも同じです。これまで当たり前のように続けてきた何かを「やめる」と決め行動を根本的に変えていく姿勢で読み進めることをお勧めします。
こんな方にオススメ!
・忘れづらく捨て難い過去の成功体験にしがみついてしまう方
・慣例や当たり前の風習に疑問を持たれている方
・最近、無駄が多いなと感じる方
著者紹介
著者の澤円さんは、日本マイクロソフトの業務執行役員であったことが有名な方です。立教大学を卒業し、生命保険会社のIT子会社を経て日本マイクロソフトに入社されます。情報コンサルタント、競合対策専門営業チームマネージャー、マイクロソフトテクノロジーセンター長などを歴任され業務執行役員を経て2020年8月まで23年間を同社で過ごされました。
現在は自身の企業である株式会社圓窓の代表取締役、琉球大学客員教授、複数の企業のアドバイザーやメンターとして幅広く活動されています。その秀でたプレゼンスキルを活かし講演・セミナー活動も活発に行われており、関連書籍も出版されています。
ポイント解説「ここを読め!」
①「人生の埋没(サンク)コスト」
本書におけるキーワードでもある「人生の埋没コスト」について紹介します。そもそも埋没コストとは経済学の概念で「ある経済行為に対してどんな意思決定をしても回収できない費用」を指します。さらに、その経済行為を続けていると損失がより拡大してしまう恐れ位のあるコストとも表現されます。
書籍内ではビジネス現場に置き換えて埋没コストを以下のように定義しています。
過去にうまくいった考え方や方法を続けていくうちに思考パターンがその過去に固定化されてしまい、その結果いつの間にか過去の延長線上でしか物事を考えられなくなっている「せっかく〇〇したのだから」という言葉で表現されることの多い思考や行動パターン
(澤円 , 2021 , 36)
この埋没コストを見つけ出し、それらを無くしていくための鍵となる思考と行動が「やめる」という選択になります。
埋没コストを考える上で注意する点が、それらは単なる無駄からのみ生まれるものではないということです。具体的には過去の成功体験においても向き合い方ひとつで埋没コストになってしまいます。自分の成功体験を自分だけの誇らしい気持ちで持っている分には良いのですが、成功体験によりアップデートする意欲が薄れてしまい、誇りであったものがいつしか価値観に変化してしまいます。その結果意図も簡単に過去に固定されてしまう人生が出来上がってしまいます。そうして少しずつ成長は止まり、次第に「俺が若い頃にはな…」という理想でないお手本の上司が完成してしまいます。当然、それぞれの時代における功績・社会貢献は価値あるものではありますがその努力に縛られてしまうことは、素晴らしい過去から埋没コストの餌食になってしまう可能性を秘めています。
本著ではその埋没コストを見つけ出す具体的な取り組みがより詳細に記載されています。
②「貢献」を軸に仕事の重要度を意識する
仕事は目標を達成するために行うという側面と併せて、「所属する組織や社会に対して貢献しているか」という側面から測ることができるとされています。この観点に沿った「やめる」は自分が得意なことに注力して、苦手なこと貢献できないことをやめて、より多くのものを生み出すために時間と労力の余裕を創出するという考え方になります。そのために重要なポイントを以下にまとめます。
・優先順位を決めておき重複した際の判断に迷わない
→結果として高い貢献になるのはどの判断かをあらかじめ想定しておき、実際のケースの際に迷わず適切な判断ができるようになる。(取引先のアポイントと内部の定例会議の重複など)
・やらなくていいことを見つけてやめる
→定例の報告会やレポートの提出など慣例として存在しているが自分の現在の組織では必要ないと考えられるものをやめる。やめるという表現が厳しく聞こえる場合は、「自動化する」「縮小して新しいことのために時間を使う」などが適切。恐らく慣例が出来上がった当初は革新的であり、価値があったが形骸化してきているものに変化を加えていく。
・自分にできないことを他人に任せる
→社員全員で事業に貢献してほしいと考える企業が少なくない現実があるが、個人レベルで見れば得意でない事に一生懸命取り組んでいるということも非常に多い。自身で完遂できないことを抱えて出来るまで時間をかけるのではなく、適切な仲間に思い切って任せることが必要であり、そのための日頃の信頼関係も重要。
終身雇用、年功序列などかつての当たり前が変化してきている現代において個人が最大のパフォーマンスを発揮できる環境に身を置くという働く環境そのものを考える上でも重要な観点。
③他人からどう思われるかを捨てる
「ありたい自分」でいるために捨てる(やめる)必要があるのは「他人からどう思われるか」という自身の感情であると紹介されています。①でも紹介しましたが埋没コストは成功体験からも発生するとされています。
例えば優れた賞や実績を手にした場合に重要な思考の整理は「それらは他人が選んだものであり、自分の力で手に入れたと過信しないこと」と紹介されています。賞などはあくまで他者の物差しによって図られた「しるし」に過ぎず、それ自体を誇りに思うことは大切ですが、そこに自分のプライドを掛け合わせてしまい、頼れば頼るほどに自由な思考と行動力を失っていく事につながってしまいます。
さらに、他人からどう思われるかという観点は他人の存在が移り変わるという前提があるため永続的に変わらず続くものではありません。他者の物差しではなく自分がどうありたいかを考えることこそが重要という考え方です。
まとめ
さて、今回ご紹介した「やめる」という選択ですが、実際の手法とその考え方・向き合い方がいいバランスで調和されており章ごとに自身の理解を実感しながら読み進めることができました。
「やめる」という言葉自体がネガティブに捉えられがちですが、やめること→変化が当たり前の未来のために時間と労力を創出すること。という前向きな解釈を深めていくことができました。
構成自体も読みやすく、読書初心者や久しぶりの読書にもオススメです。