スタンフォード式 最高のリーダーシップ

スタンフォード式 最高のリーダーシップ

はじめに

総評

 「We are the leaders:私たちは皆リーダーである」の考えをベースに、世界屈指の教育機関であるスタンフォード大学で実際に講義として提供している内容が盛り込まれているため、事例とロジカルのバランスがよく、丁寧に理解しながら読み進めることができます。心理学の専門家である著者らしく「人はシステムやロジックだけではなく心で動く。心理への洞察こそが肝心である」という考え方が終始大切にされているため、読み進めながら自身の心も熱くなります。本書への向き合い方として認知行動療法に関連づけて、知識を得ることだけでなく、行動を起こすことで考え方も行動も変わる好循環につながる。「知の書であり実践書でもあります」という心理学の専門家としてのメッセージが込められています。組織からプレイングマネージャーとしての成果を求められているリーダーの方々には必読の一冊です。

こんな方にオススメ!

・プレイングマネージャーとしての働き方に悩んでいる方

・リーダーとしての自分を意識しすぎて、失敗や弱さを恐れてしまう方

・自身のリーダーシップを再度見直したい方

著者紹介

 著者のスティーヴン・マーフィ重松さんは日本に生まれアメリカで育ちます。ハーバード大学大学院で臨床心理学博士号を取得し1994年からは東京大学留学生センター・同大学大学院の教育学研究科助教授として教鞭を執られました。その後、アメリカに戻り、スタンフォード大学医学部特任教授を務められます。現在は、医学部に新設された「Health and Human Performance」における「リーダーシップ・イノベーション」という新しいプログラム内で、マインドフルネスやEQ理論を通じて、グローバルスキルや多様性を尊重する能力、リーダーシップを磨くすべなどをさまざまな学部生に指導されてます。

 また、講演活動や執筆も積極的に行われており、『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』(講談社)、『多文化間カウンセリングの物語』(東京大学出版会)、『アメラジアンの子供たち――知られざるマイノリティ問題』(集英社新書)などの著書があります。

ポイント解説「ここを読め!」

①プレイングマネージャーが陥るトリクルダウン理論

 日本におけるリーダーポジションの多くはマネージャーの補佐的役割でありながら、プレイヤーの姿も併せ持つプレイングマネージャーという立場です。組織からはリーダー・プレイヤーいずれの面でも成果を出すことが求められます。プレイヤーの姿があるため、部下との距離は微妙に近い特徴がありますが故にどう付き合うかに悩み「リーダーらしさ」に対しての答えを必死にもがきながら探している人も少なくありません。

 そのようなプレッシャーの中から「自分が成果を上げることこそが組織のためになる」という考えにたどり着く場合があります。勿論、プレイヤーとしての役割があるため成果を上げることも重要ではありますが、その点ばかりにウェイトが偏ることは視野を狭めてしまい適切なリーダーとしての役割を果たせない可能性が出てきます。

 経済学において「トリクルダウン理論」と呼ばれるものがあります。富裕層が豊かになることによって貧困層に対しても富が届くようになり、全体が豊かになっていくという考え方で、富裕層に対する優遇や経済政策によって雇用の創出などの波及効果が期待できるという理屈になります。しかしながら実際はますます格差を広げてしまう可能性を秘めているという声も上がっています。リーダーシップにおけるトリクルダウン理論に潜む危険は、「自分が成果を出すことが何よりチームの成果になる」という強引な公式を作ってしまうことにあります。その結果自分を中心にチームを動かすことが当たり前になってしまい、チームメンバーの成果・成長への視点が欠けていってしまいます。リーダーはプレイヤーとしての役割は確かに存在しますが、自分の結果(自分の利益)を確保することだけでなく全体のメリットに対して心配りをし、チームメンバーが豊かになったり成長するために自分も貢献するという共感する力を大切にできる心あるリーダーである必要があります。

②努力と人徳は比例しない

 プレイングマネージャーとしての役割を担うリーダーは極端なリーダー像に走りがちになることがあるとして前述した例が、利益を追求し結果で見せ、結果をあげることこそチームのためになるという考え方ですが、対極にあるのはチームファーストでみんなのために自分は我慢をする「自己犠牲型のリーダー」になります。①同様に極端な自己犠牲は良いリーダーから遠い位置に存在します。

 自己犠牲型のリーダーは表面的には立派で思いやりに溢れ部下思いな上司と思われますが、そもそも組織は多くのメンバーの力を結集して結果・成果を出すために存在するため、本当に辿り着きたいゴールには一人の自己犠牲では到達できないという前提に立つことが大切です。世界に名を残しているどんな天才たちも様々な形で周囲の協力を得てインパクトを残してきています。大量の業務を自分がこなすことでメンバーには休める環境を与えてあげようなどと考える自己犠牲はいずれ無理が生じる可能性も高く、場合によっては「そこまでしてくれなくても」「自分がリーダーになったらあんなに犠牲を払わなければならなくなるのか」など自分のイメージとは異なるメンバーの反応が返ってくる可能性すらあります。

 更に自己犠牲型で疲弊したリーダーがたどり着くのは「こんなに頑張っているのに」「うちのチームメンバーは使えないな」というストレスの悪循環で心や身体を壊してしまうリスクを高め、リーダー VS チームメンバーという構図を作ってしまうきっかけにもなりかねません。マネージャーの補佐的役割としての成果を求めるための努力は過程が見えにくく、数値化されるものが少なかったり、すぐに評価されないことなどの特徴を持っていますが、自己犠牲による短期的な解決と表面的な評価を求めたり、①のように自身のプレイヤーとしての成果だけに頼るのではなく、エゴと謙虚さのバランスを取り時には自分を大切にして快適な環境で働く権利を行使するようなことがあっても勿論良いのです。そのようなバランスが取れており、両者の強みをもったリーダー像を本書ではアサーティブリーダー(パッシブ(受動的)以上アグレッシブ(積極的)未満)として細かく紹介されています。

③4つのリーダーシップ

 本書の中ではアサーティブリーダーを目指すために大切な4つのリーダーシップがそれぞれ細かく紹介されています。本記事においては簡単なまとめの形でご紹介します。

1:Authentic Leadership-人の心を掴む「土台」を築く


 自分自身の弱さ・至らなさを認めることで傲慢さが抜け周囲の痛みや弱さに対しても敏感になれるという考えです。
「本当の自己(感情・考え)」を知り積極的に包み隠さずに表現できるようになることで、信念に基づいて行動していることが伝わるようになり、周囲からも信頼され頼りにされ、リーダー自身も一個人として堂々と振る舞えるようになります。

2:Servant Leadership-本物の「信頼」をたぐり寄せる


 時には意図的に控えめな立ち位置を取り、メンバーの背中を押すという行動で成果を出していく、即ち仲間に対する奉仕を通して仲間の能力を最大値まで引き出してあげるような関わりをすることが大切であるという考え方です。主体的な行動が継続されるような支援を中心に、メンバー自身が成果を実感するまで応援し続けることでパッシブな関わりの中で本物の信頼を獲得していきます。

3:Transformative Leadership-チームに「変容」をもたらす

 自分にも他者にも変容をもたらす力を磨いていくという考え方です。ここでの変容は表面的なものではなく本質的なものであり、本来自分が持っている力を最大限に引き出し開花させるようなものを指します。そのために肝心なことは、1:チーム・メンバーを変容させようとするのであれば、まずは自分が変容する必要があるということ 2:人は簡単には変われないという根本に存在するマインドから脱却することになります。自分が変わらなければ他者は変わりませんし、知性も含めて努力次第で人間のパフォーマンスは向上します。

4:Cross-Border Leadership-持続的な「最良の関係」を確立する

 SNSの普及などにより個の力がかつてないほどに強まってきた現代、チームメンバー1人1人が発信力を持つ存在として尊重して向き合っていくことが大切という考え方です。多様性を重んじることが大切という考えは多方面で示されていますが、実際に自分と違う誰かを自分と同等に尊重するということは簡単ではありません。人と人の間には壁が存在します。更に壁は自分と違うという非常にシンプルな理由で簡単に存在に気がつきます。壁を否定することは個性を否定し、みんなで同じことをすることこそが最適で最良だという同調圧力を生むきっかけになってしまいます。壁自体は悪いものではなく、壁が存在する、人間にはそれぞれに違いがある(だから壁がある)ということを正しく理解し受け入れること、更にリーダーはそれぞれの違いに目をむけ、思いを馳せ、想像力を発揮して率先して個の違いを認めながら繋がりを構築していく立場にいることが大切になります。

まとめ

さて、今回ご紹介した「スタンフォード式最高のリーダーシップ」ですが、プレイングマネージャーとしての役割に悩むリーダーの教科書として長きにわたって力になってくれる一冊だと感じました。自身の結果だけを追い求めるプレイヤー時代のままではいけない、かといってメンバーのことを思うばかりに良い人を演じるだけにも限界がある。一体自分はどう行動をしていくことで光が見えてくるのか、そんな悩みを大学教授らしくわかりやすく、テンポよく伝えてくれています。現役リーダー、また近い将来リーダーを目指す方へもオススメです。

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