10年後、君に仕事はあるのか

10年後、君に仕事はあるのか

はじめに

総評

 教育改革実践家である著者らしく、終始語りかけるような文章表現で展開されます。言葉遣いにこれからを担う若者へ向けたメッセージ(特に学生・生徒さん)性が感じられますが、すでに社会に出られてこれからのキャリアを考える世代、また新しい仲間を採用する立場にある方へも非常に学びの多い一冊です。AI×ロボットの台頭により人間の仕事の多くが代替可能になると言われる未来、それは単なる消滅ではなく、より人間らしさを際立たせる形での進化であるとして、「学び」や「考え方」にクローズアップしながら丁寧に解説されています。

こんな方にオススメ!

・これから社会に出る学生、就活生の方

・キャリアの転機を迎えている方

・学校関係者、教育関係者(必見レベル)

・人事担当者など採用に関わる部署の方

著者紹介

 著者の藤原和博さんについてご紹介します。1955年東京都に生まれ東京大学経済学部を卒業された後、株式会社リクルートに入社され、東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任されました。年俸制社員制度のフェローを創設し、自身も同社初のフェローとなります。
 その後、たった一人からの教育改革を掲げ杉並区教育委員会の改革担当を務め、2003年〜2008年には杉並区立和田中学校で東京都義務教育初となる民間校長を務められます。
 2008年〜2011年は橋本大阪府知事(当時)の特別顧問、2014年には佐賀県武雄市の特別顧問など幅広く活躍をされ2016年〜2018年には奈良市立一条高校にて再度校長職に就かれました。
 現在は、「朝礼だけの学校」というオンラインサロンを開設され教育業界関係者やビジネスパーソン向け、中高生年代の学びの機会を提供されながら各種セミナーなどにおいて活躍されています。

【藤原和博さんプロフィールムービー】

【朝礼だけの学校サービス紹介ムービー】

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ポイント解説「ここを読め!」

①正解がない時代に必要とされる能力

 本書では生きる力の三角形という紹介がなされています。冒頭に出てきて終盤まで話の核になる重要なポイントの一つです。その三角形の構成要素は以下の通りです。

・基礎的人間力:人間関係や行事を通じた経験で育まれる体力・忍耐力・集中力etc..
・情報処理力:多くのことを覚えそれらを思い出しながら正確に正解へ導く力
・情報編集力:正解がないor正解が一つではない問題や課題に対して情報を用いて自分なりの仮説を立てられる力

この中の情報編集力を育んでいくことが、変化が激しく予測のできない不確実な未来に向かっていく上で重要な力であるとされています。これまでの日本の教育は正解にたどり着くことに注力してきました。国語の試験問題一つをとっても例文を読んで、心情について4択から回答するような問題も存在しますがそれらは誰かによって作られた正解であり自ら情報を読み取って、自分なりに理解をし編集した上でたどり着いた答えとは本質的に異なるものです。これからの時代においては、数多くある情報を適切に処理していく能力はもちろんのことながら、これまでの常識・前例・決まり事といったものを根底から疑い、自らの情報を駆使して新たな仮説を提示できる能力が必要になってきます。

②ジグソーパズル型学力とレゴ型学力

 ①の内容をさらに深める事例として、「ジグソーパズル型学力」「レゴ型学力」という表現が用いられています。ジグソーパズル型学力は情報処理力の例えとして用いられており、完成形(=正解)が存在するパズルのピースを決まった手順で埋めていくという作業が、正解にたどり着くことを目的とした能力に合致するためです。対して、レゴ型学力は組み合わせ次第で完成形(=正解)が何通りでも出来上がることから、正解が定まっていない中で答えを導き出すとして情報編集力の例えにされています。

 かつての日本は、戦後の復興段階においてアメリカの圧倒的な経済力を思い知り、1日でも早く成長を目指すためにアメリカ人のような生活をしたいと思い求めてきました。(GHQの指導も含め)即ち、アメリカという正解の形を追い求め、素早く作業を行い処理していく能力を磨いていったのです。その結果、教育は見事に成功し経済において日本は非常に早いスピードで欧米に追いつくことができました。

 現代の日本はすでに成熟社会が深まっている状況と言えます。加えて、情報に関しても個人が発信できる環境も格段に増え、知りたい情報もインターネットの検索ひとつで大量に取得できるようになりました。その結果、あまりにも情報が増えすぎてしまい何が正解なのかを考える思考が停止してしまうことさえあります。思考停止になると、インフルエンサーやそのジャンルのカリスマが良いと紹介するものを選んで手にするようになったりと、自ら選択することを投げ出してしまっていることもまた事実です。正解がない中で、情報を確実にキャッチし必要な編集を加え答えを出せることはこれからの社会において非常に重要な能力と言えます。

③30代までは恥をかけば良い

 日本の成人年齢は20歳です。これはみなさんが知っている事実ですが、20歳を成人と定めた明治期の日本は平均寿命が50歳前後であったとも言われています。当時で考えれば、平均寿命の1/3を超えこれから残りの時間をチャレンジして過ごしていく。まさに成人のタイミングとしてぴったりであったのかも知れませんが現代の寿命は大幅に伸びていることも事実です。またこれからは人生100年時代などと形容されるように、更なる寿命の延伸も話題になっています。仮に60歳・65歳で退職をしたとしても残り40年近くの時間があり、明治期で考えれば寿命の約8割を残すことになります。これは法的な整備を進める必要があるという話題ではなく、自身の気持ちとしてまだまだキャリアの下積み期であると考える場面があっても良いのではないかというお話です。思い切って未開の地に挑んでみること、新しいコミュニティに参加をしてみること、苦手なことでも失敗を恐れずに学ぶ機会を持ってみることなど、恥を恐れることなく経験を重ねることができる年齢でもあるのです。40代になると組織内での要職や家庭の環境が変化するなど、自身だけでない要因も新たに生じてくる可能性が高まるため30代の過ごし方は自由度高く動き回ることに費やしても良いのではないかという考え方です。

まとめ

さて、今回ご紹介した「10年後、君に仕事はあるのか」ですが、変わりゆく未来を見据えこれからを担う世代が磨いていく重要な力について詳細な説明がされています。藤原さんが実際に学校現場で取り組まれていた事例の紹介なども豊富で、学校だけでなく職場での研修や学びの機会にも活かすことが出来ると思います。教育カテゴリに限定せず、また若手だけでなく若手に接する機会の多い方々にも届いて欲しい一冊としてキャリアカテゴリに分類をさせていただきました。ぜひ、ご一読ください。

購入リンク

*小さいサイズで文庫本もあります
(一部、加筆・修正が行われた最新版となります)

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